アクセス便利な「Hotel Univers」
空港バスを降り、ホテルに到着。「オテル ウニヴェール(Hotel Univers)」が今回の宿。ニースは海岸沿いに高級ホテルが建ち並んでいるが、私のような貧乏な一人旅にとってはオフシーズンでもお高いので、リーズナブルな料金と交通の便を重視して選んだ。
空港からのバス停(降車専用だから看板はない)からは歩いて7~8分、トラム「Place Massena(プラスマセナ)」停留所のど真ん前。同じビル(大きなビルの中に入っている)の隣に両替所。場所としては最高、設備は……フランスだからこれくらいで仕方ない。
旧市街(Vielle Ville)へ向かう
荷物を置くなり、旧市街(ヴィエーユヴィル)へ。トラムでも行けるけど、マセナ広場を通って徒歩10分くらいで着く。すっかり夜だったので人気が少ないが、昼間はうじゃうじゃ人がいる。もう一か所、ニースには港の北側にガリバルディ広場という賑やかな界隈があるが、そこよりこっちが新しいらしい。
なんかピカピカ光るおじさんのオブジェがいっぱい並んで、それがけっこうすごい色。この地を愛したピカソやマチスが見たら、何と言うだろう。
そして広場から続く公園には、噴水の並木道。「ミロワドゥー」というんだそうな。ミロワ=鏡、なんとなくわかるビジュアル。夜なので公園が閉まってた。ここらが日本と違うところで、夜中に公園で野宿するなんてのはできないらしい。日本も犯罪の発生率を考えると、そっちのほうがいいような気がする。
神谷シェフの店「HANgoût」
※神谷隆幸シェフは2019年、カーニュに「La Table de KAMIYA」をオープンしました。この記事の最後にご案内していますので、そちらもぜひご覧ください。
旧市街に入り、カテドラルの裏手あたり。Rue du Moulinという小道に、目指す「HANgoût(ハングアウト)」を見つけた。
英語で「溜まり場」「いつもの店」的なニュアンスを持つ。その名の通り、こざっぱりとして気取らない店構えだ。一人客、子連れも歓迎だそうで、カウンター、テラス、グループ席など、幅広く応じてもらえる。
きっかけはTwitterのフォローから
我々の間で通称「HG」と呼ばれる、この店へ来るきっかけとなったのがTwitter。私のフォロワーには欧州在住の飲食関係フォロワーが多いのだが、彼らがこぞって「旨い」という、神谷隆幸シェフの料理に興味があった。そのうちご本人ともTLで話をするようになり、彼の愉快な人柄に惹かれた。そうなると、会ってその腕を確かめてみたくなるのが人情である。
その神谷シェフのご尊顔がこちら。フランスの雑誌に「15歳若く見える」と掲載されたそうだが、四捨五入したら四十路のオッサンである(笑)愛知県出身。東京、パリと修行を積み、コートダジュールに名を馳せる名店「Chateau Eza」から独立。開店一年にして当地の人気店へ名を連ねた。
クラシックなフレンチの髄がある料理
Tripadvisorあたりでは、日本料理とフレンチのフュージョンだと書かれているレビューもあるが、「純然たるフレンチに和食の技を加味した」が正解である。フォンの取り方など、今時の若いフランス人シェフがやらないような、コテコテの旧式正統派フレンチだ。味の分かる人間が食べてみれば、そのニュアンスの違いは歴然である。
さて、いよいよ着席。一人なのでカウンターをチョイス。さっとレモングラスとシャンパンのアペリティフがサーブされた。なんて素敵な香りだろう。キッチンで神谷シェフが私の前菜に取り掛かっているのを眺めつつ、やさしい泡の歓迎を楽しむ。
茄子の甘くて冷たいスープ
アミューズ。茄子の冷たいスープ。スプーンを入れると、まるでクリームのような濃厚な質感。しかし口に入れるとさらっと溶けてなくなる。非常にきめの細かい、上品な甘さ。
たっぷりの茄子の風味とともに、嚥下した一瞬だけ香ばしい胡麻が香る。それを追いかけてスプーンを口に運ぶうち、数口でなくなってしまう、まさに序章にふさわしい、意地悪な一品である(笑)奥に見えるハード系のパンも、自家製。料理に合わせて作っているそうだ。さぞや仕込みの時間が長いだろう。
テーブルに花が咲く、地野菜のマリネ
そして、前菜。まずは見た目に驚愕したと言っておこう。「旅で疲れているので、あっさりしたものが食べたい」と言ったら、シェフが出してくれた「野菜のマリネ」。
私のTwitterのTLでも、次々とRTされたこの写真。肉眼だともっとコントラストが鮮やかなので、まるで目の前に花畑が現れたかと思ったほどだ。
しかも、ロマネスコやアーティーチョーク、ラディシュや色とりどりの野菜が、その個性に応じた「固さ」と「漬け具合」で、それぞれの味を保っており、酢が尖っていないので野菜の味が存分に楽しめる。和食の炊き合わせに似た、丁寧な仕事ぶりに感服した。
豊かなコクに感動「ポークのポトフ」
メインは、ポークのポトフ。これでも量を控えめにしてもらった。あっさりしているが、ボリュームは半端ない。野菜をしっかり摂れる一品だ。
スープは極めて濃厚、しかし塩味は控えめ。骨や肉から染み出たコクとうまみが、これでもかと凝縮されている。特に手前のソーセージ(ニースの特産らしい)は、一歩間違うと獣臭くなるギリギリの野性味が、野菜の淡白さを補っている。
ポークの仕上がりも秀逸。スプーンで切れるほど柔らかいのに、肉の旨みはちゃんと残っている。もちろん野菜も味は沁みているが煮溶けていない。ポトフは家でもよく作るが、こういう火の通し具合は素人には無理。素朴な一品なれど、まさにプロの仕事を実感した。
おみやげをいただきました(笑)
この後、デセールはどうかとすすめられたが、もうお腹がいっぱいだったので、お断りしたらシェフが「ホテルで食べて」と「Bonne Maman」のクレームキャラメルをくれた(笑)
先日から仲間うちのTLで「あれはうまい!」「でも探しても見つからない!」と話題になっていた幻のプリン!シェフが根性で探し当てたものを、まかない用から譲ってくださった。メルシー♡明日の朝ごはんにするぜ~
※旧店舗の情報は削除しました。新店舗は以下の詳細をご覧ください。
La Table de KAMIYA
神谷シェフに、「ブログを再掲するとき新しい店の情報も入れていい?」と聞いたら「もちろん」と快諾していただいたので、勝手に宣伝することにした。オープンは2019年12月。海が目の前、店内を木が突き抜ける素敵なインテリアらしいが、実はまだ行けてない。ぜひ数年内にはお伺いしたい。
場所はこちら。ニースの西岸カーニュ
場所は、ニースの市外から西にある「カーニュ(Cagnes)」。正確には「カーニュ・シュル・メール」だそうだ。ニースから東はモナコからイタリアへつながり、文化的にイタリアの風味が強くなってくるが、このカーニュやアンティーブなど西側は、プロヴァンスの香りが濃厚になってくる。最も美しいフランスの景色のひとつと言えるだろう。
この界隈は、ルノワールが愛した町としても有名で、少し山手に行くとルノワール美術館がある。もしディナーを楽しむのなら、観光して「La Table de KAMIYA」に行って、そのまま泊ってしまうのもいい。朝起きて眺める海の青さを目に焼き付けて欲しい。日本の海と色彩が全く違うのだ。
さらに進化した神谷マジック
もう数々のメディアでご存じの方も多いだろうが、神谷氏は怒涛の勢いで進化を続けている。そして最近では被災地農家の支援など社会貢献にも尽力していて、被災地の野菜を救援するレシピ本は大きな話題になった。今年はコロナ禍で休業せざるを得なかったレストランも、営業再開と同時に地元の食いしん坊でにぎわっていると聞いた。
たまに見かける最近の料理は、相変わらず地元の食材を生かし丁寧な仕事をされている。そして、そんな彼の料理に大きな魅力をプラスするのが、奥方のクレール・マリ(Claire Mari)氏である。数々のパティスリやレストランで修業を積んだ気鋭のパティシエールで、彼女の作る「ババ・オ・ラム」は、神谷シェフいわく最高のババなんだそうだ。お店に行った方は、ぜひお見逃しなく。