大英博物館でまる1日/ 前編

こちらの記事は2012年の再掲です。多少情報が古いことをご了承ください。

大英博物館は巨大な宝箱

旅も佳境に入り、いよいよこの日は真打ともいえる「大英博物館」へ。まる一日たっぷり、閉館まで見て回るつもりだが、本当は2~3日でも足りないくらい収蔵物が多いらしい。しかもちょっと出遅れてしまい、10時の開館と同時に入るはずが、30分押し。地下鉄ホルボーン駅の長い長いエスカレーターを、出勤ビジネスマンとともに駆け上がる!(イギリスでも駅の中を走る人はいる)

でかい、とにかくでかい

ホルボーンの駅から歩いて10分くらい。どーんと建つ「大英博物館」が見えてきた。

周囲は住宅街+ちょこっと土産物+小さいレストランという感じで、世界中から人が押し寄せるであろう施設に対しては、観光地化していない印象だ。しかし建物はやはり立派。オリンポスの神々が宿りそうな神々しさを感しる。古代の遺跡を模した、由緒正しいギリシャ式建築なのだそうだ。

まずはオーディオガイドを借りる

入ってすぐの大ホール。円形のリーディングルームが特設会場になっていて、そこをとりまくようにカフェや売店がある。そしてこの上はレストラン。すごい人気で予約して来る人も多いそうな。

3段トレーでサーヴされる英国式アフタヌーンティーができるのも、観光客には嬉しい。ちゃんとシャンパン付きのセットもあって、一人じゃなかったら絶対トライしていたと思う。

とりあえず、音声ガイドを借りてみた。ありがたいことに日本語がある。返却するまでパスポートを預けるシステム。これがあるお陰で本当に楽しかった。館内にある英語の解説より詳細なので、展示がより深く理解できる。館内マップもついてて、ずーっと使いまくってた。

おお、憧れのロゼッタストーン

順路として最初に訪れたのが、マヤ遺跡のコーナー。昔、さんざん本を読んだことがあって、UFOだの暦だのと、神秘的な謎の多さにドキドキしたものだ。本物の遺跡や発掘物を見るのはこれがはじめてだが、のっけからびっくりさせられた。

このレリーフは王に嫁いだ后が、忠誠を誓うため舌に穴を開け、そこに縄を通して痛みに耐えるという図。別にそんなことしなくても誓えるって(泪)でも、昔の女性の立場って所有物だったんだろうな。泣きそうになるよね。


右はマスク…なのだそうだが、実際の頭蓋骨の上に乗ってる…歯が見えるでしょ、これ本物よ。宗教的な意味合いがあるのだろうが、全体的にマヤ文明は怖い感じのが多い。我々、現代日本人の死生観とは全く基準が違うのだろう。この後に続くエジプト関係でも、そのギャップは大きく感じられた。

意外と小さいロゼッタストーン

いよいよ大英博物館の心臓部、古代エジプトコーナーへ。最初にイヤでも目に付くのが、言わずと知れた「ロゼッタストーン」である。古代エジプト文献をひもとく鍵となった、古代の翻訳ツール。これが見つかっていなかれば、ピラミッドの謎は解けていなかったであろう。

ここは常に人があふれ、表から裏から写真を撮っている。私もじっくり時間をかけて見た。他の展示物と違い、さすがにこれだけは分厚いアクリルのケースの中に入っている。傷でもついて文字が欠けたら国家的損失だ。

大きさは思ったより大きくない。オフィス用デスクの天板くらいだろうか。そこにご覧のように文字がびっしり書き込まれ、それぞれが同じ内容であることから、古代エジプト文字が解読できた。また、ギリシャなどとの交易がすでに当時行われていたことの、決定的な証拠になるものでもある。

裏側は、何も文字がない。これだけの石なら寝かせて彫ったのだろう。表面をつるつるに磨き、ナイフで一文字ずつ間違いなく彫り上げた、当時の技術者のテクニックも素晴らしいと思う。

この「大英博物館」は、イギリス人が別名「大略奪博物館」とも呼ぶのだそうだ。確かに歴史から言えばあながち間違いでもないだろう。ただ、その略奪や時には強奪のお陰で、当時の発掘物が良い状態で現代に残っているのであるから、良し悪しを語るのは難しいところだ。

ランチは館内のカフェで

さて、館内はじっこにある比較的すいているカフェテリアを見つけたので、ランチタイム。簡単なホットミールが4~5種、あとはケーキとサンドイッチ、サラダ程度のメニューだが、値段は大英帝国(笑)

大きなサラダとコーディアル

朝をいっぱい食べたのと、今夜の美味しいディナーのために、サラダであっさり済ませることにした。といっても、けっこうなボリュームなのだが。

チョイスしたのはシュリンプサラダ。下に白いんげん、上にマーシュレタス、ちょっとハーブとトマト、アボカドがひときれ、それで1000円くらいするのがイギリス。

コーディアルは英国の味

飲み物は、こちらでよく見かけるエルダーフラワーのコーディアル。シロップ状のものを、水や炭酸で割って飲む。甘~い香りとやさしいお味。こういうかわいいボトル、日本にもって帰りたいけど、重いし割れそうで断念…。

外国に来ると、清涼飲料水のパッケージに興味津々になる。日本のデザインって、なんであんなに似たようなのばかりで、だっさーいんだろう。

The Room 1 へ

昼食後、本来は真っ先に訪れるべきであったであろう、「Room1」に赴く。ここは「Enlightenment(啓蒙)」という名がついている細長い部屋で、いかにも大英帝国時代の識者が集ったらしい、様々な物が収納してある。

英国らしさが凝縮された部屋

書物、実験道具、天体観測器具、メダルなどなど、他の部分が発掘や発見によって集められたコレクションであるのに対し、この部屋は往時のイギリス人たちが、それらを蒐集するために使った道具や、その時代の持ち物が展示されている。

オーディオガイドによると、250年前の開館時からほとんど変わっていないらしい。もともと医者であったハンス・スローンが住んでいた邸宅、そして8万点におよぶコレクションを、死の間際に一般に公開するよう遺言したことから、この世界最大級の博物館が誕生した。またしても古き英国、太っ腹物語なのである。

おもしろい展示品がいっぱいすぎる

これは巨大な本。私の握りこぶしはケースのずいぶん手前にあるので、本当はもっと巨大に感じる。このサイズの本は手に持って読めるのか。5kgは軽くあるだろう。寝転がってなどは到底無理だ。

こちらは天体の動きを計測する「orrery(オーレリー)」という天空機。地球の位置と季節による空の傾きを入れることで、それぞれの星の位置がわかるようだ。作られたのは、1750年くらい。その後の時代にも数々の天空機が作られ、人々は地球と宇宙のかかわりを知った。

現在はロケットで人類が宇宙に行くようになったが、この時代にこんなレベルの文明があったことを考えると、今の宇宙開発というものは遅々として進んでいない分野のような気がする。

↓この楽しそうなお道具箱には「ウィリアム・アレン・ボックス」と説明がついていた。製図用具のコレクションらしいが、緑青がふいているような色=銅製であるのだろうか。

私も美大時代、グラフィックデザインの授業で使っていたが、けっこう使えそうな道具がびっしり並んでいる。きっと全て職人さんが手作りしたのだろうが、非常に細工が丁寧で、見ているだけでも惚れ惚れする。

エジプト!エジプト!エジプト!

キター、エジプト、キター!!!大英博物館といえばこれでしょう。英国が軍事力と植民地で稼いだ金で、エジプト中ほじくりかえして見つけたお宝軍団!

まずはラムセス2世にご挨拶

はーい、このお兄ちゃんが世界でいちばん有名なエジプト人「ラムセス2世」ね!けっこうイケメン?このアゴの四角いのはどうやってくっついてるんだろう(いつも謎)

ちょっと欠けてはいるけれど、顔はきれいに残っている。全体的に言えることだが、すごく発掘物の状態がいいのだ。イギリスの探検隊が乗り込んだときは、王家の谷なんて泥棒に金品ごっそり持っていかれた後だったというが、こういうお金にならないものはノータッチ。こっちの方が価値はあるのだが…

お墓周りのコレクション

こちらはお墓関係の室内置物か?中にミイラが入っているものとはまた違う。日本で言う土偶や埴輪のようなものかもしれない。高貴な身分の人が亡くなったとき、人型のものを墓に入れる風習は世界的に見られる。あの世でも家来に傅かれ、という事か。

猫もエジプトの古代を語る重要なもののひとつ。猫は神様の使いと言われていて、中でも王家の猫ちゃんは人間よりもっと高貴な存在だった。

鼻ピアスも純金。宝石のついた首輪や足輪をして、王族にかわいがられていた図が想像できる。ブロンズと銀を混ぜた合金でつくられた像。いかにもエジプトの猫らしく、シャープでスリムな美しい姿だ。

石棺とか壁画とか門とか

いよいよ石棺。私の好きな石棺。

身分の高い人の棺だろう。全体に細かい文字がびっしり彫りこまれ、蓋にはその人の絵だろうか。立派な服装の男性?がレリーフになっている。

かっこいいよね、私も死んだらこういうのに納めてほしい(火葬できない)

通路いっぱいに続く、壁画。「遺跡からひっぱがしやがったな(笑)」

門を守る、二匹の怪物。小さくないのよ、むっちゃ大きいの。白いセーターのお兄さんが、2mかるく超えてるの(笑)!!!

ツタンカーメンのおじいちゃん

こちらの足の指がえらく長い方が「アメンホテプ3世」。あのツタンカーメン王のおじいちゃんにあたる王様だ。去年ルクソールでこのファラオの巨大像が見つかって、考古学の世界では大騒ぎがおきた。古代エジプトの最盛期に、当時では珍しく40年も王位についた王様だけに、様々な関連遺跡が残っている。

門をそのまま移築したのだろうか。とても大きな展示物。これと似たものを、ベルリンのペルガモン博物館で見た。あちらはエジプトではなく古代ペルシアだったと思うが、宗教的な文言が刻まれているのは、共通している。

大理石でできた、大きな腕。王様の像の左腕ということだが、全体像はどういう形だったのだろう。腕だけの方がアートレベルは高い気がする。


これはライオン狩りのレリーフ。当時はライオンを狩ることが、王族にとって民に勇壮さをあらわすことだったそうな。王族の男性にしか許されていないハンティングで、きっと何人も噛まれて死んだのではないだろうか。狩られるライオンも迷惑な話だ。

古代エジプトの展示の最後に、古代ローマがつながっていた。クレオパトラとシーザーを頭に思い浮かべた。その時代、イタリアからアフリカ大陸は遠かっただろう。とんでもない遠距離恋愛だったわけだ。

ここで時刻は午後2時前。たっぷり3時間は見ているが、まだ半分残っている。さすが、天下の大英博物館。「ちゃんと見るなら、二日はかかるよ」と言われていたが、納得した。せめて5時の閉館まで、ダッシュで回ろう!