大英博物館でまる1日/ 後編

こちらの記事は2012年の再掲です。多少情報が古いことをご了承ください。

後半は世界の民族史からスタート

さてお腹も満たしたことだし、後半に突入。とにかく広大な面積にこれでもかと展示品があるので、要所を攻めないと時間が足りない。

とりあえずモアイに突撃してみる

やってきたのは世界の民族史コーナー(勝手に命名)。どーんと部屋を圧倒するモアイを見て笑った。昔、作家の立松和平さんを取材したとき、イースター島まで行くのに、アメリカからチリのサンチアゴまで行って、数日に一本の船に乗ると言われていた。

そんな僻地からこいつを連れてきたのか。高さ3~4m、重さ約20トン。しかも製作途中のを入れても1000体しかないのに。

ちなみにイースター島の部族抗争により、近年モアイは倒れて放置されていたのだが、日本の会社がクレーンを持ち込み、チリ海軍とともに修復したという話はあまり知られていない。

そしてモアイの隣はイヌイットとエスキモー。カナダではイヌイット、アラスカではエスキモー。取り違えた名で呼ばれることを彼らが拒絶しているため、オフィシャルな呼称がふたつある。

しかし日本人と顔が似てる。上段に展示してある防寒服を見て、つい「植村直己さん」を思い出してしまった。かつては日本の貧しい村と同様に「姥捨て」の習慣もあったらしい。それは偶然の一致にしても、太古の昔に民族がどうやって各地に散らばったのか、とても興味深い。

こちらは中国の壷。どの時代のものか覚えていないが、色彩の華々しさは古代中国の一人勝ちなんじゃないだろうか。そしてツヤツヤと傷もなく、完全な形で残っていることに、驚きを隠せない。

個人的には陶器はシンプルな藍×白が好きだが、立体的なものにここまで描きこむって根性すごいなと思った。というよりこの形のものには、何を入れるのだろう。ラッキョウや梅干、もしくは遺骨しか思い浮かばなかった、粗末な自分の想像力が恨めしい。

日本の展示は「マンガ」と「サムライ」

こちらは日本代表。その名も「MANGA」コーナー。もう全世界的に漫画は近代日本のお家芸なのね。この漫画家さん存じ上げないのだけど、大英博物館が舞台として出てくるらしい。

この漫画に限らず、メジャーな作品はたいてい英語に翻訳されている。ちょうどこの時期は日本フェアが行われていて、アニメ関係のポスターも何度か駅で見かけた。

鎧兜。外国人はこういう「サムライ」を感じるものが好きだなと思う。どの美術館や博物館でも、サムライ系の展示には人が多い。で、その割には説明書きがショボいものだから、紋がどうとか身分がどうとか、リアルな情報が伝わっていないと思える。

しかしあまり熱心に眺めていると、横から「日本人?サムライ好き?」と目をキラキラさせたおっさんが話しかけてきそうなので、とっとと退散(笑)

そして保存点数の多い鎧兜より、本当は日本史にとって何倍も貴重な埴輪のコーナーは誰もいない(T_T) この形の完全出土品は珍しいのに!

ぶつぶつ言いながら、ふたたびエジプトコーナーへ。回る順番を失敗して後回しになってしまったが、お楽しみの「ミイラちゃん」に会いにいくのである。やっぱり大英博物館にきたら、ミイラ見ないとでしょう!

ミイラちゃん、お待たせ!

きた。ミイラ展示コーナー。見渡す限りミイラちゃん。もしこの数で祟られたら即死だろうが、私は死体や霊はあんまり怖くないので、ずんずん行く。

ミイラについてのうんちく

ちなみに英語ではミイラはマミー(Mummy)。ミイラの語源はポルトガル語のミルラ(没薬/もつやく)からきているらしい。没薬とはアロマテラピーでも使われる樹脂で、死体の腐敗を防ぐのに使用されたそうだ。日本語では「木乃伊」と書く。まったく語感がリンクしないが、外国語からきたのは間違いなさそう。

なんでエジプトでミイラが作られたかというと、死んだ魂を後世に蘇らせるという、宗教的な考えからのようだが、やはりお金がかかることだけに、高貴な人に集中するのは当たり前。その場合、あの世で困らないように金品財宝を一緒に埋葬するので、やおら墓あらしが横行するわけである。

自然発生するミイラもある

でも、中には裸で質素な生活用具とともに、棺にも入れられずにミイラになってる人もいて…。これは庶民が普通の埋葬(土葬)をして、たまたま色んな条件のせいでミイラ化したんじゃないだろうか。

そういうミイラは世界中にある。(日本にも数体あると聞く)死体の水分が極端に低く、気候が乾燥していると腐敗より枯れるスピードが速い。干物になってしまうわけだ。また、アルカリ性の土壌の中で脂肪が化学反応して石けん状になってしまい、ロウ化した状態で発見される固体もたまにある。

ただしそれらは特殊な例で、やはり王族などは内臓を抜き、血液を抜き、脳を抜き、さらに薬液に浸した包帯を巻いて腐敗を止め、人工的にミイラ化させているから、現代にまで保存されているのだ。熱く語ってしまったが(笑)ミイラはロマンだ!(意味不明)

中には自立した人もいて、こんなん夜中に歩き回られたら楽しくて仕方ないわw

いろんなミイラを見て興奮

ホラー映画の「ミイラ男」は、きっとこんなイメージ。

でもこれは棺の上から布を巻いているようだ。やはり腐敗防止のためだろうか。何百とあるミイラもそれぞれ仕様や装飾が違って面白い。日本でもお墓の形状に細かい違いがあるが、あれと同じようなものなのだろう。

こちらは棺の内部。きっと高貴な方の棺に違いない。素晴らしく緻密な絵が描かれている。死後の世界や輪廻が信じられていた世界では、葬られた後の幸せを祈る内容になるのだろう。

仏教の葬式でも「三途の川の渡り賃」と、貨幣を棺に入れる習慣があったり、全世界的に死ぬのは孤独な旅立ちであったらしい。

テルマエ・ロマエにそっくり(爆)

けっこうドキッとしたのが、猫のミイラ。置物なんじゃないかと思いたかったが、後ろにチラッと写ってるレントゲン写真・・・。ばっちり中には猫の骨格!

これ最初に中身あけた人は驚いたろうな。飼い猫の生まれ変わりを願ったのか、一緒にあの世に連れて行ったのか。猫は猫背だから猫なのに、こんなにまっすぐしたら可哀想よっ!

生活の中の古代アートたち

ラストスパートの前にお茶を一杯

ミイラで興奮して疲れたので、ここでアフタヌーンティーでもしようかと、ホールど真ん中のレストランに行ってみたのだけれど、さすがに人気があるらしく、満席。

ホール1Fのカフェテリアでおとなしくティーバッグの紅茶をすすった。館内にいくつかカフェがあるので、探せばどこか座れる場所が見つかる。

また、こちらのミュージアムでありがたいサービスが、自由にお使いくださいチェアがあることだ。

館内あちこちにこういうラックが置いてあって、ひょいと持っていって、好きな場所で返す。一日中、固い床を歩いて美術鑑賞すると、意外と足腰に負担がかかるものだが、館内あちこちにあるソファや長いす、こういったギャラリーチェアのお陰で、ゆっくり過ごすことができる。こういうサービスは、大いに日本の美術館も見習って欲しいと思う。

隅々まで面白いものが隠れている

閉館の時間が迫ってきたが、まだまだ展示品は尽きない。

こちらは世界最古のゲーム。チップと棒があるってことは、博打なんだろうな。まぁ、事の起こりはそうでしょう。紀元前2600~2300年くらいのものらしい。

赤ちゃんが沐浴できるくらいの巨大な鉢。粉々になってたのを、ほぼ全形復元している、その根性がすごい!土の中から出てきたはずなのに、よくかけらまで見つけたなと感心した。考古学って根気よね。

こちらは金のケープ。要するに肩掛けなのだが、幅からして女性用。ちょっとこれ重いやろ!古代エジプトの絵をみるかぎり、衣装は薄手のものが多いようだけど、頭にのせてる冠?みたいなのとか、首輪、腕輪、足輪、ベルトにネックレス・・・装飾品が多くて身動きとりにくそう。

もういっこ、ゲーム系。こっちは象牙で掘られたチェス(たぶん)。ミュージアムショップでも、この写真が入ったトランプとか売られていたので、かなり有名なものみたい。なのにピンボケごめんなさい(汗)

このコーナーの近くに、たぶん比較のためだと思うけど、20世紀の道具が展示されていた。朝から延々と古代のものを見慣れた目には、なんかすごくモダンに見える。でも、よく見ると数世代前のデザイン(笑)そのうち自分たちの子孫がこれを「古代では~」とか眺めるのかな。

そのショーケースにおいてあった、SONYの時計。昭和のにおい!眺めてたら隣のオッチャンが「SONY~」とニヤけてた。私が日本人だとわかったようだ。目が合って二人で噴出してしまった。こんなんが大英博物館にあるとは思わんかったわ(笑)

こちらは、世界最古の時計なんだそうだ。分銅と歯車で正確に時を刻む。ずいぶん大掛かりな装置だったんだなという感想。まさかこれ作った人は、そのうち手首に巻いて使えるほど小さくなるとは思わなかっただろう。

これができた頃には教会など公共の施設に設置され、人々に鐘を鳴らして時刻を伝えたようだ。よく映画でも、塔の最上階にこういう装置がある。わが国でもお寺の鐘は公共サービスだった。最近はあまり音を聞く機会もないが。

ウェッジウッド社のジャスパーシリーズに見られる、レリーフ使いの陶器。こんなに古い時代から、レリーフの技法があったことに驚く。しかも細工が非常に精密だ。形からすると水がめだろうか。割れや欠けなども見当たらず、どのような状態で保管されていたのか、妄想が膨らむ。

そしてこの馬の頭も妄想が膨らみっぱなし。ゴッドファーザーのテーマが脳内に流れる(笑)昔の人たちが今より馬を重用したのはわかるが、大理石で頭像をつくったのはなぜか。

紀元前350~300年。持ち主が仲間に自分の馬を自慢するために作られたのか。今で言うと、買ったばかりのスポーツカーを見せびらかすようなものかもしれない。

さて、まだまだ展示品は鑑賞したのだが、そのごく一部をアップした。この後、べっぴんロンドン・ガールズと、女子会パート2のためバービカン駅に向かう。